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雪の日

雪が降って積もった次の日の朝は、静かだ。
私の経験上近しい人が亡くなったときには、普段通りに過ごしていてもいつもより静寂を感じることがある。
雪の積もった翌朝はそんな時に似ていると思う。

殺害された友人の兄の家では、スノーグローブの贈り物を飾っているらしい。
これは友人の兄の奥さんが白血病による治療で半年間入退院を繰り返していた期間に同じ病院で過ごした若い方のご家族から頂いたものということだ。クリスマスを病院で過ごすことになったため、もらったという。
置物が嫌いな奥さんが飾る数少ない特別な置物だ。

残念ながらこの若い方は先日亡くなってしまった。
そしてこの方にも弟か妹がいたようだ。

友人の兄のように事件や事故の被害者遺族だけでなく、病気で亡くなられた方も含めて、兄弟姉妹を亡くした方へのケアは見過ごされがちだということだ。
もしかしたら、子供を亡くした親を気するあまり、自分自身の悲しみにすら気づいていないかもしれない。
友人の兄が交通事故被害者遺族の会の方にお話を伺った時に、その代表の方からも言われたようで、自身と同じく残された兄弟姉妹の方を案じていた。

前にテレビでこのような話が紹介されていた。
新郎デリック・スミスさんの新婦ケイティさんが、10数年前交通事故で亡くなったデリックさんの弟ジェイクさんの臓器提供によって心臓移植を受けたグレイシーさんを探しあて、結婚式に招待した。
以前からデリックさんはジェイクさんを結婚式に呼びたかったと言っていたそうだ。

その時にグレイシーさんからデリックさんにプレゼントされたキーホルダーには心電図の波形とともに下のようなメッセージが掘られていた。

「僕は急に逝くことになってしまった。僕たちはさよならを言わなかったね。でも兄弟が離れ離れになることはないんだ。だって大切な思い出が消えることはないから。」


次男を亡くした柳田邦男さんの本『犠牲(サクリファイス)』にこんな文章がある。

百年の孤独

冷たい夏の夕暮れに、私の二十五歳になる
次男洋二郎が、突然自ら死出の旅に出てしまった。

時は冷酷なまでに過ぎ去っていくが、
彼の部屋だけは凍結されてしまっている。

殺害された友人の部屋は丸5年が経とうとしているが、今も当時のままだそうだ。
スノーグローブの中の雪のように消えずに時が止まったまま凍結している。
せめて遺族の心境にだけはいつの日か雪解けが来ることを願って止まない。